着物保管について

着物の保管は面倒なことではありますが、大切に保管していただければ、いつまでもずっと着ることができます。当然ですね。

 シミが付いて着られなくなったから、タンスの中にずっと入れっぱなし、だとか、シミのために捨ててしまった、などのお話を聞くと、なんだか悲しくなります。そのために、シミを付けない着物の保管を考えていきたいと思います。

昔は、洋服ではなく、和服でした。扱いの容易さや機能性、見た目などで、普段着るものが、着物から洋服に変わってきており、今や、着物は高価なものになってきました。日本の伝統行事のために伝統衣服を着るというように、希少で、高価なものになってきました。また、着用するにもたくさんの小物が必要です。着るにもなかなか一人では着にくいものです。

そうすると、より簡単にしてしまうか、もっと手の届きにくいものにしてしまうか(それで、価値を上げて希少性のあるものする)、両極端になってきています。総じて、中途半端に高価なものという感は否めません。

そのように高価な着物は、生地や染めの関係上、洗うにもやはり高価になってしまいます。洋服のクリーニングというわけにはいきません。

そこで、普段の保管や扱い方に注意することで、手遅れになることを避けようと思った訳です。少しでも、長く、きれいに持っていただきたい、そんな思いで、書いております。

 

着物にとって一番の敵は湿気です。

タンスと壁の間には少し間を開け、風通しをよくしましょう。

これが、第一歩です。

タンスの中には防湿剤と防虫剤を入れましょう。また、こまめに交換するようにしてください。これが、なかなかできません。何年も替えていないことはよくあることです。交換は、定期的になるように決めましょう。何月にとか、虫干しの時に、というように… 

そして、薬剤は、着物に触れないようにご注意を。

  

着物保管(虫干し)

着物の虫干しの目的は、

1 湿気を取り除くこと

2 言葉のごとく、虫を取り除くこと

3 着物を点検すること   です。

時期は、

①7月下旬〜8月下旬

②10月下旬〜11月下旬

③1月下旬〜2月下旬    です。

いずれも湿気の少ない時期に着物を干します。

虫干しの意味は、

①土用干し…梅雨で湿気た衣服を乾かします。

②虫干し… 夏についた虫を追い払い、掃除します。

③寒干し… 衣服の湿り気を抜くのが目的です。

虫干しは、晴天が2日以上続いた晴天の日を選んで、行います。だいたい10:00~15:00の4時間程度行います。

そして、着物を裏返しにして、風通しが良く、陽が当たらない場所に、着物ハンガーに一枚ずつ掛けて、干します。裏返しにするのは、日やけするのを避けるためです。部屋の電器も消しましょう。

虫干しのときは、着物は、陽があたらない場所ですが、たとう紙は、太陽にあてて、良く干しましょう。たとう紙についている、虫やカビ菌などを太陽にしっかりあてて、殺菌します。

タンスの引き出しは、その虫干し中、開けっ放しにして、空気を入れ替えるようにしましょう。

そのとき、古くなっていたり、色が変わった、たとう紙は交換をしましょう。 たとう紙が、汚れてきたり、黄色く変色してきたりすると、カビや虫に犯されている可能性があります。開けてみて、着物に異常がなかったとしても、同じたとう紙では、じわじわと着物に害を及ぼす可能性があります。たとう紙が汚れてきたら、新しいたとう紙に取り替えましょう。

もし、虫干しの時間は取れないけれど、少しの時間はあるという方は、着物の点検をしながら、(たとう紙から着物を出して、)引き出しに入っている着物の順番を変えてみるのもいいと思います。その時は、引き出しの中の薬剤や敷き紙も取り替えましょう。

虫干しが終わったら、たとう紙にきれいに畳んで入れ、タンスにしまいます。その時に、防湿剤や防虫剤を取り替えてください。薬剤は、着物には、触れないようにご注意ください。

虫干し後は、着物を点検してください。カビやシミがついていたら、専門家へ相談してください。そのまま置いておくと取れなくなって、せっかくの大切な着物が着れなくなるかもしれません。

虫干しは、年に一度はやっていただきたいことです。どの時期の虫干しでもいいので、年に一度はしていただきたいという意味です。ただ、時間のなかなか取れない方も多いことでしょう。そこで、グっと大まけして、タンスの引き出しを半日くらい開けて、空気を入れ替えることをしていただいても、多少の効果はあると考えます。

現代の家は昔と比べて密閉度が高く、湿気がこもりやすい構造になっています。繰り返しになりますが、着物にとって湿気は大敵です。湿気をこもらせない保管が大切です。

 

着物保管(お手入れ)

最近では、着物を着るときは、結婚披露宴や同窓会など食事をする場面が多いのではないでしょうか。食事時ですから、食べ物を着物にこぼしてしまった。そんなご経験があるのでは…

そんな時は、無理に拭いたり、たたいたり、こすったりしないでください。

軽くつまんで食べ物を取り除き、あとは、時間をおかずに専門家へというのが正しいです。

シミが付いたとき、ついついやってしまうのは、こする、たたく、水で拭く、ドライヤーをかけてしまう、などです。どれも、適切ではありません。

着物は生地を染めたものですから、こすると、色が抜けてしまいます。着物のシミを水で拭くと、ますます輪ジミになってしまうことがあります。染料が生地の中で動く可能性があり、シミの成分と、シミを取ろうとした水と、染料が着物の生地の中でごちゃまぜになって、最悪な状態になります。

 一見シミが取れているように見える着物でも生地にはその成分が残りますから、数年経つとカビなどに犯される可能性があります。これは避けたいことです。

ドライヤーで乾かすと、どうなるか。熱で変色したり、生地が縮んだりする可能性があります。着物を染めて着物を作る過程で、染料を生地に留めさせるために熱を加える作業があります。

染めの最後は温度なんですね。その着物に適切でない熱を加えると染料の成分が変わってきます。濡れたからドライヤーで乾かそうとすると思わぬ事故に結びつきます。お気を付けください。

そして、アイロンです。シワなどを伸ばそうとしてアイロンをかけたとします。アイロンの温度は、生地によって異なりますが、100°C〜130°Cくらいです。

上からタオルや手拭いをかけて、アイロンをかけます。着物にそのままアイロンを当ててしまうと、表面がテカテカになったりしますので、あて布は必ずしてください。スチームは使わないほうが無難です。

もちろん、着物のメンテナンスの仕上げはアイロン。プレス仕上げです。シワも取れ、ピシッとなった着物はとても気持ちのいいものです。アイロンをかけてはいけないということではなく、生地や着物にあった温度や、やり方で適切に仕上げたいということです。

 

着物保管(桐ダンス)

桐は、生育が早く、15〜20年で立派な木に成長します。人間が成人になるくらいの期間ですね。日本古来の風習で、女の子が生まれると庭に桐の木を植えて、お祝いをしました。そして、子供の成長と共に桐もすくすく育ちます。そして、娘の嫁入りの時に庭の桐をタンスにして、嫁入り道具として持たせます。そんな風習が日本にありました。

さて、タンスの高級素材である桐です。桐は、防湿に効果があり、害虫の侵入を阻止し、適度な通気性まで兼ね備え、収納具そのものが変質しにくいという超難題に適したスーパー素材です。そして、燃えにくいという特性を持っています。

全焼したおうちに着物と共に焼け残った桐のタンスが残っていたというお話もあるほどです。その真偽は定かではありませんが・・・。

ただ、桐は、湿気や害虫やカビなどの細菌に弱い着物にとっての保管場所には最適です。

 

着物保管(カビ)

細菌やウィルスのように、空気中に浮遊していたり、壁にくっついていたり、地面や取っ手、今触っているマウスや、キ-ボードにカビ菌はついています。目に見えると恐ろしいくらいかもしれません。衣服に付くカビも人体に影響は及ぼさないにしても、衣服を台無しにしてしまいます。高価な着物が、カビにやられ、着られなくなった事例は山ほど見ました。本当に悲しいお話です。そこらじゅうににいるカビ菌を、ではどうすればいいのかを考えて行きたいと思います。

私は、すべてのカビ菌を殺して、いなくするのではなく、うまく付き合っていく、というか、カビ菌をなるべく増殖させないようにすればいいのではないかと思っています。

衣服につくカビ菌のことを少し調べてみました。カビの活動条件は、湿度、温度、酸素、栄養となる物質があることです。人間が生きていくのに必要なものばかりですね。湿度は50%以上、温度は25〜30°C、酸素、養分。快適な人間の生活環境が、カビを増殖させるんですね。では、どううまく共存していくか。

カビ繁殖の四大条件の一つ、栄養分です。カビは、タンパク質、炭水化物、アミノ酸、脂肪、糖分を栄養としています。衣服に着く、カビの栄養分として考えられるのは、垢、フケ、皮脂、食べ物の付着、などでしょうか。カビの栄養分を付着させたまましまってしまうのは、カビを繁殖させるためにしまってしまうことになります。全てとは言えませんが、カビの栄養分は取り除いて、しまうことが適切です。

さて、カビの繁殖四大条件のその他の三つです。もう一度整理すると、酸素、湿度、温度です。これを排除することは不可能ですね。ただ、適切な状態にすることはできるかもしれません。

湿度を考えてみますと、タンスに除湿剤を入れたり、タンスを風通しの良い、ジメジメとしたところを避けて置いたり、湿気をこもらせない工夫をすることです。湿気をこもらせないために、タンスを定期的に開けておいたりする工夫もひとつです。

着物にカビが一面についていたお客様の事例をひとつご紹介します。そのおうちは北側が少し山になっていて、風通しが少々悪く、湿気は気になる御宅でした。タンスは日の当たらない北側に置いてあり、温度的にはお家の中でも比較的あがらないところでした。ただ、風通しが悪く、湿気が多く、着物をしまう時は、多少の陰干しだけでした。数年後に着物を出して、びっくり。一面カビでした。カビ繁殖の栄養分が残っていたんですね。それと、湿度が関係して、カビを繁殖させてしまったのだろうと思います。しまう時の洗いは大切です。

カビを漢字で書くと、「黴」。バイキンを漢字で書くと、「黴菌」。カビは元々不潔なものをあらわしていたのかもしれません。何度も繰り返しにはなりますが、カビが発生する条件をなるべくなくしてしまえば、カビの発生の可能性は低くなります。カビの栄養となるものを取り除き、温度を上げない、湿度を上げないようにすれば、カビの発生は抑えられます。

カビとはどういうものか。カビの発生を考えてみます。空気中にさまよっている胞子(種子みたいなもの)が、着物にくっついています。胞子は、ミクロの大きさなので、目には見えないものです。その胞子は、カビ発生の四大条件によって、植物のように根を張っていきます。着物についた栄養分、十分な湿気、適度な温度、酸素によってどんどん根を張っていきます。そして、何十倍もの根を張り、成長した頃にやっと人間の目に見えます。その時にはもうカビを取り除くことは不可能になっているかもしれません。

また、カビは、高温や紫外線には、弱いのです。かと言って、直射日光を着物に当ててはいけません。変色や、色焼けの原因になります。ただ、引き出しや、たとう紙は、日光に当てても問題ありません。むしろ、虫干しの時は、引き出しやたとう紙は、しっかりと紫外線に当てて、殺菌をするべきかもしれません。

カビは、湿気を好みます。カビが付いたからと、濡れた布でカビを落とそうとすると、逆効果です。カビを落とすどころか、カビを繁殖させてしまいます。

お客様との話し。まだ着たことのない新しい喪服を出したら、一面カビだったそうです。ふわふわの白っぽいカビで、払ったら、着れたのでそのままご使用されたとのこと。初めて着る喪服で、出番がなかったから(頻繁に出番があっても困るのですが…)、ずっと引き出しの下にそのままになっていたらしい。その喪服の上には、こびりついたカビの生えた着物がずっとおいてあったとのことでした。袖を通していない着物にもカビが生えるんですね。確かに胴裏とか、布をシャキっとするために糊付けしてあるものがあります。その糊が、カビの栄養になるんですね。虫干し、点検、着物の順番替え、風を通すこと、など年に一度はしたほうがいいですね。(ここでも、虫干しの重要性が出てきました。)

カビを取ろうとして、水を使うと、カビは喜びます。カビが余計に増える可能性があります。

確かに、シミには、水溶性の物質や油性の物質など様々あり、水は水で落とし、油は油で落とします。ので、シミを取るために水を使わないということはありません。水をつけるときちんと乾かします。カビを発生させない状態にします。優しく、ゆっくりと乾かします。この作業を丁寧にしないと輪ジミになったりします。シミとカビとごちゃまぜに書いていますが、言いたいことは、着物についているそのものが何かを追求せずに、短絡的に水で取ろうとすると、危険が待ち構えているということです。

シミやカビを家庭でも手に入るベンジンを使って、取ろうとした場合を考えてみます。結論的に言うと、おすすめはしません。生地を痛めたり、色抜けの原因になったりします。色が抜けると、たとえ1cmの色が抜けても、着られないことになるかもしれません。専門家にまかせたほうがいいですね。

シミを作らないということは、カビを発生させないということです。

つまり、

1.カビの発生栄養素の排除、

2.適度な湿度を保つこと、

3.適度な温度管理で、

カビの発生を極力抑えることができると考えます。

 

着物保管(防虫剤)

防虫剤は、揮発性を持ちますので、また、その成分は空気より重いので、下に沈んでいきます。だから、防虫剤は、衣類の上におくと効果的です。ただ、着物には触れないように、たとう紙の上におきましょう。防虫剤の併用は、避けたほうがいいです。

防虫剤の種類には、

①樟脳(しょうのう)

②ナフタリン

③パラジクロルベンゼン

④ピレスロイド系  

があります。

異なる防虫剤を使うとお互いが影響し合い、薬剤が溶けて、衣類にシミついたりしますので、気を付けてください。ただ、ピレスロイド系は、どの防虫剤とも併用できます。ということは、樟脳・ナフタリン・パラジクロルベンゼンは一緒には使えません。

①樟脳は、クスノキから水蒸気蒸留で得られる製油成分です。樟は、「楠」という意味です。自然の防虫剤とも言えます。臭いは、自然の芳ばしい臭気があります。殺菌効果があり、ほとんどの衣類に使用できます。ただ、金糸、銀糸、金箔には直接触れないようにしてください。

②代表的な衣類の防虫剤はナフタリン。そう言えば、昔はナフタリンばかりでした。あの臭いは、忘れられません。直接手でさわると皮膚が赤く腫れたり、炎症を起こすこともあるので気を付けたいです。揮発性の薬剤です。何度もお伝えしますが、防虫剤の併用はしないでください。防虫剤を替えるときは、虫干しをして、タンスの引き出しもしっかり干して、薬剤を取り除いてから行なってください。

③防虫剤のパラジクロルベンゼンは、揮発性でも、拡散が早い物質です。タンスやクローゼットの隙間から部屋に拡散し、部屋に充満するという感じです。金糸や銀糸、ラメなどは黒く変色してしまう可能性があります。

④ピレスロイド系の防虫剤について。ピレスロイド系は、除虫菊というキク科の植物の花部から抽出された殺虫成分の物理的な性質や生物効力を化学的に改良した一群の化合物の総称です。無臭で、家庭では、蚊取り線香などに使われています。他の防虫剤との併用ができ、タンスや衣装ケースに適しています。

防虫剤は、どんな虫に効くか、というよりも、衣類の種類や、住まいの環境にあったものを選んだほうがいいかもしれません。多少、人間に害を及ぼすものですから、防虫剤の成分表をよく読んで、ピレスロイド系以外の併用を避けたり、衣類に直接触れないようにしてください。